評価: 9点/10点満点 ★★★★★★★★★☆
※結末についてはっきりとしたネタバレはありませんが、作中のいくつかのシーンに触れています
概要/あらすじ(「BOOK」データベースより)
幸せな四人家族の長女として、何不自由なく育った弥生。ただ一つ欠けているのは、幼い頃の記憶。心の奥底に光る「真実」に導かれるようにして、おばのゆきのの家にやってきた。弥生には、なぜか昔からおばの気持ちがわかるのだった。そこで見つけた、泣きたいほどなつかしく、胸にせまる想い出の数々。十九歳の弥生の初夏の物語が始まった―。
レビュー
映画を観ているような感覚
特徴的なのは、各シーンでの人物や風景の細かい描写。人物の服の柄や表情など、普通の小説がぼかしているようなところが徹底的に書き込まれている。
本の最後に載っている解説に書いてあるように、非常に映像的な小説で、まるで映画を観ているような感覚にさせてくれる。
胸に迫る切ない展開と少女の冒険のワクワク感
ストーリーは主人公の弥生を中心に、おばのゆきのや家族との関係を描いている。弥生の心理描写はとても繊細で、誰もが抱く言い表せない感情を言語化しているようで、とてもみずみずしくて印象的な文章だった。一部よくわからない心理描写もあったけど…。
中盤の展開は衝撃的で、思わず「マジかよ…」と心の中でつぶやいてしまった。でも真実に迫ろうとする弥生の純粋な気持ちには胸を打たれるし、幼いころの記憶を取り戻すために各地を転々とする小さな冒険は、読んでいてワクワクする。
綺麗な文章だけどしっかりエンターテインメント
繊細で美しい文章に目がいくが、それに加えてストーリーも先が気になり、一気に読んでしまう魅力がある。
1988年に出版された本(加筆はされてるけど)だが、今読んでも古臭さは感じないのもすごい。内容的にも万人受けすると思うしページ数もあまり多くは無いので、面白い小説読みたい!という人には自信をもってオススメできる一冊だった。