評価: 9点/10点満点 ★★★★★★★★★☆
レビュー
「普通が良い」という考え方に鋭くメスを入れる
うちの奥さんが買った本だが、おすすめされたので読んでみた。精神科医として数多くのクライアントと関わってきた著者が、日本に深く根を張っている「普通が良い」という考え方に疑問を呈し、「自分を取り戻す」ことの大事さを説いている。
日本に定着している様々な考え方に鋭い突っ込みを入れているが、著者が実務を通して考え続けてきた内容だけに重みがあるし、深いところまで掘り下げている。口当たりの良いメッセージの逆をいっており、よくあるポジティブ思考的なビジネス書とは一線を画す内容で、とても面白かった。
信じて疑わなかった概念を揺さぶられる感覚
頭(理性)・心・身体の関係や、「規則的で健康的」な生活の落とし穴、精神の成熟過程や孤独に向き合おうとしないことの問題点など、どれも深い洞察がされており感心しっぱなし。私が無意識に「これはこういうものだ」「こういう生き方が良いに決まっている」と信じて疑うこともなかった概念を揺さぶられたような感覚だった。
また、私は理系ということもあって客観的、合理的な考え方を一番に持ってきがちだが、この本で語られている主観や直感の大事さについても、今まであまり持っていない視点だったので新鮮だった。
印象的だったのが、筆者が哲学者や科学者の言葉を引用する一方で、詩を頻繁に引用する理由だった。詩は正常と異常の両方を股にかけて、行ったり来たりしながや異常の世界を正常の方へ持ってきて伝えようとしている、という内容。
たしかにこの本でもいくつか詩が引用されて紹介されているが、どれも示唆に富んでいるし「普通」とされている感覚に疑問を投げかけるものも多くて、なるほどな~と思った。
壁にぶつかって人生に悩んだときに
科学的なエビデンスよりも詩人や哲学者の言葉が多く使われていることもあり、全体的にエッセイのような雰囲気があって読みやすい。
ただ、主観の大事さが語られているだけあって(?)、主張に対してあまり客観的なデータなどが示されていないのは、理系人間の私としては少し気になってしまった。実際は色々とデータはあるけど、本のコンセプト的にあえて載せてないのかもしれないが。
それでも複雑な問題に対して平易な言葉でわかりやすく書かれているし、2006年に出版されて今も読み継がれている理由がよくわかる。何か壁にぶつかって、自分の生き方に悩んだときにまたパラパラとめくってみたいと思える一冊だった。